音の向こうに、歩いてきた道がある│マイルス・デイヴィス『E.S.P』

 

マイルス・デイビスについて書かれた本を読んでいる。

マイルスについて書かれた本にどんなものがあるのか調べてみると、
様々な角度から書かれたものや、年代別のものなど、かなりの数がある。

きっとその全部を読むことはできないだろうけれど、
それでもすべてのページをめくってみたいと思う。

それだけ彼の生き方や佇まいに音だけじゃない人間としての奥行きを感じて、
もっと知りたいと思う自分がいる。

 

音を聴いて感じることは、たしかに多い。

その場の緊張感、空気の揺れ、感情の気配。

でも最近思うのは、
その人が「どんな風にそこにたどり着いたのか」を知ると、
その音を、より深く感じられるようになるということ。

 

たとえば、なぜこのコードを選んだのか。
なぜこんなに間を置いたのか。

その前に何があって、どんな人と関わって、何を考えていたのか。

その人がどんな思考や選択を重ね、
どんな時代の空気を吸っていたのか。

そうした背景を知ることで、
一音一音が、ただの「演奏」ではなく、
その人自身の物語や佇まいを映すようなものに感じられてくる。

 

ただ「かっこいいな」と思っていたフレーズが、
まるで日記のように、あるいは心の声のように聴こえてくることがある。

 

音楽は、その人が経験したすべての影響を受け、今の形になっている。

つまり、音の奥には人生の地図がある。

 

その人が歩んできた道を知ると、
その地図が少しずつ浮かび上がってくる。

知らなかった交差点や、思わぬ寄り道、長く続く一本道が、
あの1音にどうつながっているのか、想像できるようになる。

 

聴くということは、
過去を旅することでもあるんだなと思う。

 

だから僕は今日も、マイルスを読みながら、マイルスを聴く。

今日は、ウェイン・ショーターがマイルスのクインテットに加わって、
最初に残した音。

『E.S.P.』に針を落とす。

「この一音一音に、どんな気持ちが詰まっているんだろう」と、思いを馳せる。

 

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